【海外遠征に向けて】
最近では、女子フットサル界でも国際交流が非常に盛んになってきた印象があります。海外でプレーする選手もいれば、海外で開催される大会に参戦するチームも増えてきました。昨年冬には、フットサルチャイニーズ・タイペイ女子代表を招いて国内初の国際親善試合が行われましたし、記憶に新しい今年9月には、記念すべき第一回AFC女子フットサル選手権も開催されました。国際大会における日本女子代表の活躍にもより大きな期待が寄せられる中、代表チーム以外でも遠征先の選択肢の一つとなりつつある「海外」に向けた準備について、今回はご説明したいと思います。
【遠征前の情報収集】
異なる環境でコンディションを良好に保つためには、事前の情報収集が鍵となります。渡航目的が観光ではなくベストな状態でプレーするということになりますから、現地の文化に触れながらもいかにベストコンディションを維持するかを考えなければなりません。
1) 時差
4時間以上の時差がある場所へ移動すると、時差ボケが起こると言われています。また、東行きの移動の方が西行きの移動よりも時差ボケが大きくなるようです。対策としては、出発の数日前から行き先の時間に近づけるように、生活のスケジュールを1〜2時間ほどシフトしていくといいでしょう。
2) 気候
現地の季節、気温、湿度を把握し、持参する衣類の調整を行いましょう。
3) 衛生環境
異なる環境下では体調を崩しやすくなります。中でも起こりやすいトラブルの一つとして、下痢が挙げられます。原因としては、気候、風土、食事、疲労、ストレスなどが原因になるものと、細菌感染が原因となるものがあります。いずれにしても、衛生環境が良いとは言えない国では、以下の点に気をつけましょう。
・生水は飲まない
・氷の入った飲み物は飲まない、飲み物に氷を入れない
・生野菜やカットフルーツは避ける
・乳製品は避ける
・生卵や半熟卵は避ける
・生の魚介類やしっかりと火の通っていない肉類は避ける
その他、感染性胃腸炎などが心配される国では水回りの管理を徹底することで予防に努めます。あまり過剰になりすぎてもストレスになりますが、特に心配された地域では選手たちに以下の点を徹底させたこともあります。
・歯磨き、うがい、洗顔もミネラルウォーターで行う
・シャワーの際は口を閉じ、水道水が口内に入らないようにする
・便座を除菌してから、あるいは便座シートを敷いてから便座に座る
・トイレットペーパーがない国(備え付けのホースによる水洗いが基本の国)にはトイレットペーパーを持参する。水に溶けやすいトイレットペーパーが望ましい。
・食事の前に手指消毒剤を使用する
・宿泊先のリネンに使用する除菌スプレーを持参する
食事については、事前に内容を調査できればベストです。前述の注意事項を気にかけ病気の予防に努めるとともに、栄養バランスの乱れや食欲不振などを引き起こさないよう、日本からドライフードを持参したり、食欲を促すために調味料やドレッシング、ふりかけなどを用意するのも一つです。ビタミン不足などを回避するためにサプリメントを活用してもいいですが、ドーピング問題を考慮してJADA認定商品マークが貼られたものを選びましょう。
4) 予防接種
入国に際して必要な予防接種はないか、行き先で流行している病気がないかを事前に調査しましょう。大会によっては主催者側から通知されることもあります。過去に受けた予防接種を確認するためにも、母子手帳は大切に保管しておきましょう。
5) 現地の医療体制
日本大使館や現地の日本人コミュニティの協力を得て、安心して受診できる医療機関を調べておきましょう。
【機内での過ごし方】
飛行中の機内は、航空会社によって多少の差はあるようですが、客室内温度は22〜25度前後に保たれているようです。ブランケットが用意されている場合がほとんどですが、身体が冷えないよう調整できるように、夏場でも上着などを用意しておくといいでしょう。また、乾燥対策も必須です。一般的に、長時間のフライトの際は機内の湿度が20%以下にまで下がると言われていますので、目の乾きや喉の痛みといったトラブルを回避できるように工夫して下さい。具体的には、下記の点を気にかけるといいでしょう。
・ 目薬を使用する
・ 機内ではコンタクトレンズを着用しない
・ 水分をこまめに摂取する
・ マスクを着用する
・ 飴を舐めたりして口内の乾燥を防ぐ
遠征のための移動ですので、機内でアルコールを摂取することはないかと思いますが、水分補給としてのアルコールは適切な判断とは言えません。機内は標高が高い山と同じくらい気圧が低くなりますので、地上にいる時よりも酔いやすくなります。また、アルコールに限らず利尿作用のある飲み物(カフェインを含む飲み物など)は体内から水分を排出し血栓ができやすくなることもありますので、控えめにした方がいいでしょう。
また、機内の乾燥による脱水と長時間の座位により身体を動かさずにいると、血液粘度が上昇し下肢の静脈に血栓が形成されるリスクが高まります。エコノミークラス症候群とも言われ、8時間を超えるロングフライトでは特に気をつけなければなりません。この血栓が血流にのって肺まで流れると、肺血栓塞栓症につながり死にいたることもあります。予防策は下記の通りです。
・ 座りながらもできる足の運動(足の指や足首を曲げ伸ばししたり回したりする)を時々行う
・ お手洗いに行く際などに少し歩いたり狭いスペースでも可能なストレッチなどを軽く行う
・ 血行が悪くなるのを防ぐため、座っている時に脚を組まないようにする
・ 水分補給をしっかり行う(利尿作用のある飲み物は避ける)
・ 身体を締めつけない、ゆったりとした服装で過ごす
機内では時計を行き先の時間に合わせ、少しでもそれに沿った過ごし方を心がけましょう。事前に機内食について調べ、補食を持参するなど対策ができればベストです。ロングフライトの場合は離陸後と着陸前に機内食が出され、場合によっては間食のサービスもあります。しかしそのタイミングが現地時間とは一致しないケースもありますので、工夫しましょう。アレルギーなどがある場合は、事前に航空会社に相談すれば対応していただけます。
常備薬を持参することも大切です。体調が悪くなった場合に備えて、機内にも医薬品が搭載されていますが、海外の航空会社の場合には海外のお薬になりますし、病状や医薬品の効能、服用の注意点などを外国語で確認しなければなりません。常備薬を持参していれば安心ですし、体調に不安がある場合は出国前に医師に相談しておきましょう。
現地に到着後は、生体リズムを同調させるために軽い運動を取り入れましょう。日中であれば太陽光を浴びることも効果的です。移動による疲れや出発国の時間(日本時間)の通りに睡眠を取ってしまうと時差の影響が取れにくくなってしまうので、現地時間の夜になってから就寝できるように心がけて下さい。
【現地でのコンディションチェック】
毎朝起床時に体重や体温、脈拍数を測定することは、体調のチェックに役立ちます。また、就寝から起床までの夜間排尿回数により時差ボケの影響を把握することができます。普段とは異なる環境だからこそ、体調不良を未然に防ぐためにできることを積極的に行いましょう。
最後に、文化も宗教も生活習慣も異なる地域では戸惑うこともあるかと思いますが、現地で生活する人々が笑顔で暮らすその環境をリスペクトし、まずは受け入れる努力をしましょう。そこにはお互いの国の価値観の差が存在するだけです。異文化に触れる貴重な機会に感謝しながら、その環境でいかに心身の状態を良好に保ち、ベストパフォーマンスを発揮するためには何が必要かを考えていきましょう。