第1回女性特有の悩みについて
【 はじめに 】
女性の間でもフットサルの人気は年々上昇し、その競技人口も増えつつあります。そのような中で、競技フットサルのレベルも必然のごとく高まり、昨今においてはフットサル日本女子代表の国際舞台での活躍にも期待が寄せられています。
しかしながら、フットサルの競技環境はいまだ恵まれたものとは言い難く、特に女子チームの場合は国内トップレベルでも仕事や学業と両立しながら練習に励み、試合に臨んでいるというのが現状ではないでしょうか。フットサルに魅了され、さらなる高みを目指して熱心に取り組もうとするほど、周囲から求められるレベルや目標とするステージも上がり、競技にかける時間の確保や生活とのバランスを取ることが難しくなっていくケースもあるかと思います。そしてコンディションの調整が追いつかずに、疲労を蓄積させてしまったり、思わぬケガにつながってしまい私のもとへ相談にやってくる選手も増えてきました。プロスポーツの環境とは異なり、「身近に相談できる専門家がいない」、「何から始めたらいいのか分からない」というような声もあるでしょう。
逆に、外傷・障害予防のために、あるいは高い目標のために、アドバイスやパーソナル指導を求めてくる選手も増えてきました。今年に入ってから、女子フットサル選手向けのコンディショニングセミナーを定期的に開催していますが、ドキドキしながらも初参加してくれたり、リピート率が高かったりするのは非常に嬉しい現象です。少しでも女子フットサル界の底上げの一助となれれば幸いです。
こちらのサイトでは、女子フットサル選手が知っておくべき医科学的な基礎知識や、簡単に取り入れることのできるコンディショニングの方法などを共有していければと思います。競技を問わず、トップで活躍する選手の多くは自分自身の身体を熟知しており、どのようにしたらコンディションを良好に保ち高いパフォーマンスを発揮できるかを日々考え、実践しています。技術や戦術など、競技専門以外は気にかけたことのなかった方々でも、その土台となる心と身体に着目し、できることから始めてみませんか。ケガを予防し、疲労を早期に回復させ、気持ち良く動く身体を手に入れることで、必然的にパフォーマンスも上がっていくことでしょう。皆様のポジティブな変化を楽しみにしています。
【 女性特有の悩み 】
選手たちと話をしていると、月経に関する悩みを抱えていながらも、特に対処はしておらず婦人科を受診したこともないという選手が非常に多いことに驚きます。私は日本から遠く離れたドイツに約8年ほど暮らしていた経験がありますが、そこには婦人科への定期的な通院は当たり前のような文化がありました。ドイツ人女性のピル服用率の高さにも驚きましたが、積極的に婦人科検診を受けたり、体調に関する不安を早期に解消できたりするのは、とても重要なことだと改めて感じました。
選手からの相談として比較的多いのは、以下の内容です。
・ 「生理が規則的に来ない、いつ来るか分からない」
・ 「生理が止まってしまった、数ヶ月来ていない」
・ 「生理がくる前にイライラしたり、身体が重くなったりする」
・ 「出血量が多く、生理中はふらふらする」
・ 「生理中は腹痛や腰痛がひどく、憂鬱になる」
・ 「生理中は練習に集中しにくい」
月経周期はホルモンの変動により、「月経期」、「卵胞期」、「排卵期」、「黄体期」の4つの時期に分けられ、約一か月ごとに繰り返されます。月経開始日を一日目とし、次の月経の前日までを月経周期と考えますが、理想的な周期日数は28日で、多少の変動はあっても25〜38日以内であれば正常といえるでしょう。なお、月経の開始から終了日までの持続期間は3〜7日が正常範囲とされています。
女性アスリートの主観的なコンディションとしては、月経終了から排卵期までの一週間が最も良好で、逆に月経一週間前から月経中が最も優れないと思われているようです。月経前は黄体ホルモンの影響により、身体が浮腫みやすく体重が増加したり、胸が張ったり、精神的に落ち着かなくなったりと、様々な症状が出現するため、パフォーマンスの低下にもつながる可能性があるということでしょう。しかしながら個人差もありますし、月経周期と実際のパフォーマンスや競技成績は、必ずしも一致しないようです。大切なのは、日頃から自分自身の身体と向き合い、上手に付き合う工夫をすることではないでしょうか。
【スポーツと月経異常】
環境が変わったり、ハードなトレーニングを長期間行ったり、体脂肪率が極端に低下したりすると、それまでは順調だった月経が止まってしまったり、周期が乱れてしまったりすることがあります。スランプや焦り、大きな大会への重圧といった精神的なストレスが原因となることもあります。
無月経を長期間放置してしまうと、難治性の排卵障害につながる可能性もあれば、アスリートの場合は骨強度の低下により、疲労骨折のリスクを高めてしまうこともあります。無月経期間が三か月以上続くようであれば、早めに婦人科を受診しましょう。
【月経にまつわる諸症状】
PMS(月経前症候群)という言葉を聞いたことがあるかと思います。月経が始まる3〜10日前頃から現れる症状で、浮腫みやそれによる体重増加、胸の張りや痛み、憂鬱やイライラ、下腹部痛や腰痛、肌荒れなど、症状は様々です。
それから、月経時の随伴症状が強く、日常生活にまで支障をきたしてしまうものを、月経困難症といいます。子宮筋腫や子宮内膜症などの疾患による器質性のものと、それらを伴わない機能性のものに分けられます。月経時に下腹部痛、腰痛、頭痛、吐き気、食欲不振、イライラ、腹部膨満感などの強い症状がある場合、競技に集中できないこともあるでしょう。
いずれにせよ、婦人科を受診し原因を明確にする必要があるでしょう。病気が隠れている可能性もありますから、我慢して放置せずに早期に足を運びましょう。症状によっては鎮痛薬や漢方薬、あるいは低容量ピルなどの服用で対応することになるかもしれませんが、どのように付き合っていくべきかをきちんと相談することが大切です。
【悩む前に、専門家への相談を】
繰り返しますが、「月経前の諸症状が強い」、「月経痛がひどい」、「月経が来ない」、あるいは「周期が不規則で不安がある」などの場合は、迷わずに婦人科を受診することをお勧めします。その他気になる症状があってもなくても、検診を受けたことのない方は特に、一度足を運んでみましょう。その際に、ドーピング検査の対象となる可能性のある選手は、必ずその旨を医師に伝えることを忘れないで下さい。
それから、自己管理がきちんとできているか、今一度振り返ってみましょう。「最後に生理が来たのはいつ?」という質問に答えられない選手がたくさんいます。すぐに答えられなくても、手帳やカレンダーに記録し、確認できるようにしておきましょう。基礎体温まで測定していればなおベターですが、コンディションを把握するだけでなく、それらは診察の際の重要な情報となることは言うまでもありません。
練習や試合の際に、突然月経が来てしまい慌ててタンポンやナプキンを求めてくる選手もいます。「試合に被らないと思っていた」、「最近生理が来たばかりだから、絶対に大丈夫と思い生理用品は持って来なかった」と口を揃えるのです。合宿や長期遠征といった場合でも、そのようなケースがあるから驚きです。繊細な女性の身体はストレスやプレッシャー、環境の変化にとても敏感なことは前述の通りです。アスリートである前に女性として当然の準備ではありますが、競技に集中したいのであれば尚のこと、いつでも対応できるようにしておきたいところです。
最後に、選手の周りの方々にも女性の心身に対するご理解をいただければ幸いです。月経前や月経中の諸症状には個人差もありますし、重い選手にとってはパフォーマンスに明らかな影響を及ぼすこともあります。経血漏れが心配で集中できない、しかしながら練習中はお手洗いに行きづらい、という悩みを抱えている選手もいます。正しい知識と理解、そしてさりげない気遣いで女性アスリートの環境は明るく変化すると思います。全体のコンディショニングの一環として、是非とも気にかけていきましょう。